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東京地方裁判所 平成8年(特わ)518号 判決 1997年3月06日

本店所在地

東京都港区高輪一丁目五番一九号

株式会社伝田工務店

(右代表者代表取締役 傳田博)

本籍

東京都大田区上池台四丁目五番

住居

同都港区高輪一丁目五番一九号

会社役員

傳田博

昭和五年七月二三日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官沖原史康並びに弁護人稲山惠久(主任)及び同竹内俊文各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社伝田工務店を罰金九〇〇〇万円に、被告人傳田博を懲役一年に処する。

訴訟費用のうち証人瀧上正夫及び倉田壽夫に支給した分は被告人株式会社伝田工務店及び被告人傳田博の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社伝田工務店(以下「被告会社」という。)は、東京都港区高輪一丁目五番一九号に本店を置き、不動産の仲介、売買及び賃貸等を目的とする資本金一〇〇万円の株式会社であり、被告人傳田博(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、第三者名義で不動産売買を行い、あるいは売上の一部を除外して仮名の普通預金等を設定するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  昭和六一年八月一日から昭和六二年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三九一六万五六〇三円(別紙1修正損益計算書参照)、課税土地譲渡利益金額が八三七二万四〇〇〇円(別紙3ほ脱税額計算書参照)であったにもかかわらず、右法人税の納期限である昭和六二年九月三〇日までに、東京都港区芝五丁目八番一号所在の所轄芝税務署長に対し、法人税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三二二三万四一〇〇円(別紙3ほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  昭和六二年八月一日から昭和六三年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四億八七五八万円(別紙2修正損益計算書参照)、課税土地譲渡利益金額が五億〇五四二万九〇〇〇円(別紙3ほ脱税額計算書参照)であったにもかかわらず、右法人税の納期限である昭和六三年九月三〇日までに、前記税務署長に対し、法人税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三億四九〇〇万〇五〇〇円(別紙3ほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

※1 括弧内の甲、乙の番号は、証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。

2 *は、当該証拠から検察官が証拠調べ請求を撤回した部分を除くことを示す。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  差戻前第一回及び第一三回ないし第一五回並びに控訴審第一回及び第二回公判調書中の被告人の供述部分

一  被告人の検察官に対する供述調書九通(乙二、一二ないし一五、一七ないし二〇)

一  差戻前第七回公判調書中の証人瀧上正夫及び倉田壽夫の各供述部分

一  亀田福代(甲三六)、瀧上正夫(甲三七〔*〕)、倉田壽夫(甲三八〔*〕及び小川一郎(甲五二)の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の不動産売上高調査書(甲一)、受取家賃調査書(甲二)、期首商品棚卸高調査書(甲四)、仕入高調査書(甲五)、期末商品棚卸高調査書(甲七)、給与手当調査書(甲八)、福利厚生費調査書(甲九)、旅費交通費調査書(甲一〇)、通信費調査書(甲一一)、接待交際費調査書(甲一二)、支払保険料調査書(甲一三)、修繕費調査書(甲一四)、水道光熱費調査書(甲一五)、消耗品費調査書(甲一六)、租税公課調査書(甲一七)、事務用品費調査書(甲一八)、仲介手数料調査書(甲一九)、顧問料調査書(甲二一)、支払手数料調査書(甲二二)、リース料調査書(甲二三)、管理費調査書(甲二四)、雑費調査書(甲二五)、受取利息調査書(甲二六)、受取配当調査書(甲二七)、雑収入調査書(甲二八)、有価証券売買益調査書(甲二九)、支払利息調査書(甲三〇)、損金にならない税金調査書(甲三一)、及び事業税認定損調査書(甲三三)

一  大蔵事務官作成の報告書五通(甲七九〔*〕、八〇ないし八二、一〇二)

一  検察事務官作成の捜査報告書三通(甲三四、三五、一〇一)

一  登記官作成の商業登記簿謄本(乙二一)

判示第一の事実について

一  被告人の検察官に対する供述調書四通(乙三、四、六、一六)

一  差戻前第五回公判調書中の証人桶川勝の供述部分

一  桶川勝(二通=甲三九、五一〔*〕)、桶川慶子(甲四〇)、寳福由秀(甲四一)、横山治男(甲四二)、早坂眞一(甲四四)、瀧上正夫(甲四七)、植村文雄(甲四八〔*〕)、金澤宥介(二通=甲四九〔*〕、五七)及び徳武良吉(甲五〇)の検察官に対する各供述調書

一  検察官作成の捜査報告書(甲四三)及び電話聴取書(二通=甲四五、四六)

一  検察事務官作成の捜査報告書七通(甲三、二〇、一〇三ないし一〇六、一〇九)

一  登記官作成の土地登記簿謄本(三通=甲八三、八四、八九)、閉鎖土地登記簿謄本(二通=甲八六、八七)及び閉鎖建物登記簿謄本(二通=甲八五、八八)

判示第二の事実について

一  被告人の検察官に対する供述調書三通(乙九ないし一一)

一  早坂眞一(二通=甲六五、六六)、瀧上正夫(二通=甲六七、七四〔*〕)、倉田壽夫(甲六八)、森田孝男(甲六九)、鈴木武雄(甲七〇)、角田潤一(甲七一〔*〕)、武藤雪(甲七二〔*〕)、大和一也(甲七三〔*〕)及び和田藤候(甲七五)の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の損金にならない罰科金調査書(甲三二)

一  検察事務官作成の捜査報告書三通(甲六、一〇七、一〇八)

一  登記官作成の土地登記簿謄本(甲九九)、閉鎖土地登記簿謄本(二通=甲九七、九八)及び建物登記簿謄本(甲一〇〇)

(法令の適用)

被告人の判示所為はいずれも法人税法一五九条一項(罰金刑の寡額については、平成七年法律第九一号による改正前の刑法六条、一〇条により、平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項による)に該当するところ、各所定刑中懲役刑を選択し、以上は平成七年法律第九一号による改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年に処し、さらに、被告人の判示各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については法人税法一六四条一項により同法一五九条一項(罰金刑の寡額については前同)の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、以上は平成七年法律第九一号による改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で被告会社を罰金九〇〇〇万円に処することとし、訴訟費用のうち証人瀧上正夫及び同倉田壽夫に支給した分は、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により被告会社及び被告人の連帯負担とする。

(量刑の理由)

本件は、判示のとおり不動産の売買等を目的とする被告会社の代表取締役であった被告人が、土地等の売買により多額の利益を上げながら、それらを含めて一切申告せず、被告会社の法人税を免れた事案である。

本件での脱税額は、二事業年度合計で三億八〇〇〇万円余と多額であり、全く納税申告しなかったため、そのほ脱率も一〇〇パーセントに達している。被告人は、同人の一人会社である被告会社において、昭和五五年七月期から昭和五八年七月期までの納税申告を行わず、昭和五九年六月に至って、所轄税務署長の再三の勧告に従い右各事業年度分を期限後申告したが、利益が上がっているうちにそれらを裏金として保留して将来の事業に備えようとの考えから、昭和五九年七月期以降の被告会社の納税申告を行わなくなり、本件犯行においては、正規の会計帳簿等を備えないのみならず、利益除外のため、ダミー法人を不動産取引に介在させたり、実際額より代金を過少にした架空契約書を作成し、この差額を第三者への仲介手数料に仮装するなどの所得秘匿工作を行っているのであって、その動機に何ら酌量の余地はなく、犯行態様も悪質であり、被告人の納税意識は真に希薄というほかない。本件について国税局の犯則調査を受けてからも、被告人は、架空経費の実在を主張し、そのために被告会社との関係で弱い立場にある関係者に口裏合わせのための働きかけをし、虚偽の証拠書類を作成させるなどしており、これらの事実も被告人の納税意識の希薄さとほ脱意思の強固さを裏付けている。本件起訴(平成四年九月二四日)後四年余を経て今日に至るも、本件脱税にかかる本税の未納付分も少なくなく、附帯税等の納付の確実な見込みもない状況にある(このような状況に至っている原因の一端は、バブル景気崩壊後不動産売買が極めて低調となり、被告会社等で所有している不動産を処分できないことにあると推察されるが、バブル景気崩壊は本件の納期限経過後のことである。バブル景気の不動産ブームの時代に、不動産取引で多額の利益を得ていた被告会社が、納期限内にその利益から法律に従った納税をすることは十分可能であったのであり、不動産売買の低調を被告人及び被告会社のために大きく斟酌にすることはできない)。以上の諸点を併せ考えれば、被告人及び被告会社の刑事責任は重いといわざるを得ない。

他方において、被告人は、差戻前から所得の帰属等を一部争いつつも、国税局の指導に従い修正申告をし、一応反省の態度を示しており、控訴審において被告人の主張が一部認められたこともあって、差戻後の当審においては、控訴審でも容れられなかった従前の主張を撤回し、控訴審の判断に従う旨表明し、反省の情を深めていること、右のとおり、控訴審で被告人の主張が一部認容されて、差戻前第一審判決が破棄されたこともあって、本件審理が長期化し、その間被告人に精神的な重圧がかかっていること、被告会社において、差戻前第一審判決当時は、本件脱税にかかる本税の五〇パーセント強(その認定脱税額を基準とする)が納税されていたが、その後も納税の努力を続け、さらに約七七〇〇万円を納付し、認定脱税額が減少したため、本税の七五パーセント弱を納付したことになること、被告人には前科前歴もなく、今後扶養していかなければならない病気の妻と高齢の義母がいることなど被告人及び被告会社のために酌むべき事情もある。

当裁判所は、これら一切の事情を総合勘案した結果、本件の審理経過、被告人の反省状況等を十分斟酌しても、本件の脱税額、ほ税率、犯行態様、納税状況にかんがみ、被告人については懲役刑を選択した上、刑期の面ではできるかぎり寛大にするも実刑をもって臨まざるを得ないと判断した上、被告会社及び被告人を主文の刑に処することとした。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告会社につき罰金一億円 被告人につき懲役一年八月)

平成九年三月一六日

(裁判長裁判官 安廣文夫 裁判官 阿部浩巳 裁判官 飯畑勝之)

別紙1

修正損益計算書

自 昭和61年8月1日

至 昭和62年7月31日

株式会社伝田工務店

<省略>

別紙2

修正損益計算書

自 昭和62年8月1日

至 昭和63年7月31日

株式会社伝田工務店

<省略>

別紙3

ほ脱税額計算書

自 昭和61年8月1日

至 昭和62年7月31日

株式会社伝田工務店

<省略>

自 昭和62年8月1日

至 昭和63年7月31日

株式会社伝田工務店

<省略>

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